中学V
作・S
サハユォルと分かれて三ヶ月が経った。
記憶については消えたらしいが、厄介な症状がでているらしい。
なんでも、さまざまな記憶が混同してところどころ捏造されているらしいのだ。
気にはなったが、会いに行くことはできない。
理由はどうであれ俺は、彼女を見捨てたのだから。
俺は陰鬱とした気分のまま学校をサボり、鈴歌の家に行くことにした。
鈴歌と共にいると心が安らぐのだ。
鈴歌の家に着いた。
一人暮らしなのに大きな家に住んでいる。
いくつも使っていない部屋がある。
もったいないとは思うが、そういうことには関与しない。
人それぞれなのだ。
呼び鈴を押す。
扉が開く。
「あら、今日は学校ないの?」
「自主休校。」
「・・・あなたの先生は大変ね。」
「問題児ってのはどこにでもいるもんさ。」
俺は鈴歌にキスをした。
同時に抱きしめ中にはいる。
後ろ手に扉を閉め、唇を離した。
「朝から大胆ね。」
鈴歌が耳元で囁いた。
「大胆なのは嫌いだったか?」
「いいえ、大胆なあなたも大好き。とても新鮮よ。」
「そこまでいわれたら、最後まで突っ切らないとな。」
俺は鈴歌を抱えあげた。
「あら、楽しみね。」
鈴歌は艶っぽく微笑んだ。
「相変わらずかわいい寝室だな。」
ベッドにはぬいぐるみが並び、かわいらしい小物が多く飾られている。
鈴歌は少女のように顔を真っ赤にしている。
俺はさらさらとした髪をそっと撫でた。
「本当に綺麗な髪だな。」
「ありがと・・・」
鈴歌がキスをしてきた。
舌まではいる濃厚なキス。
俺は鈴歌の胸を揉む。
俺の手の動きに自在に形を変える。
「火がついたか?」
俺は小さく囁いた。
「ええ、狂おしいほどに。」
鈴歌が答える。
「じゃあ、共に狂おうか・・・」
「ええ・・・」
正午のサイレンが響き、俺たちは唇を離す。
「大丈夫か?」
調子に乗ってしまい、ひどく負担を掛けてしまった。
「大丈夫よ。」
そういいつつも、ふらふらしている。
俺は鈴歌の了承を得てから、昼ごはんを作った。
「私、行かなきゃいけない所があるの。」
昼食が済むと、鈴歌が言ってきた。
「・・・わかった。俺も行くよ。」
ふらふらと歩く鈴歌を支える。
次回からは気を付けよう。
10分ほど歩いたところにある家で止まった。
呼び鈴を押す。
帰ろうとしたところを鈴歌に止められた。
そのまま、二階の一室まで連れて行かれた。
そこには長く美しい髪を腰まで伸ばした少女がいた。
ベッドから半身だけを起こしている。
「こんにちは。調子はどう?葵ちゃん。」
葵・・・葵というのか。
俺は彼女に心を奪われていた。
これが俗に言う一目惚れってやつかもしれない。
「はじめまして。僕は松尾洋邦。」
気づいたときには喋りだしていた。
「洋邦・・・さん。はじめまして、私は神藤葵と言います。」
どことなく優しく、安心させられる話し方。
「葵ちゃんか。いい名前だね。」
「ありがとう・・・ございます。」
葵ちゃんは顔を真っ赤にして伏せてしまった。
「ああ、なんてことするの!」
なにが悪かったのだろうか?
鈴歌に怒られる。
まあ、別に気にしないけど。
葵ちゃんがおろおろして俺達をみる。
「ごめんね。驚かせちゃって。」
鈴歌が葵ちゃんに謝る。
「いえ、そんなことは・・・」
葵ちゃんが困ったように言う。
それから俺たちはいろんな話をした。
葵ちゃんはその全てに喜怒哀楽を包み隠さず表しながら聞いていた。
2月14日
長日大付属高校の入試結果がきた。
結果は特進U種に合格。
素直に嬉しい。
まあ、落ちるとは微塵も思っていなかったが。
突然肩をたたかれる。
「どうだった?」
「井村か。特進Uに合格だ。」
俺は振り向かずに、井村に合格通知だけをみせた。
「おお〜・・・俺は特進Tに合格したぜ!」
井村は胸を張って俺に合格通知を見せてきた。
「おお、やったじゃねえか!」
俺は大げさに喜んでやる。
「次は島長やな!」
井村が意気込む。
俺は小さく溜め息をついた。
「あまり行く気はないんだがな…」
小さく呟く。
「ん?なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。」
俺は軽く頭を振り、井村の言葉を否定した。
「今日はフサの家にいくのか?」
「いや、いかねえよ。」
「わかった。」
そう言うと、井村は帰り支度を始めた。
俺は鞄とバッグを持ち、葵ちゃんの家へと向かった。
ここ2週間ほど、鈴歌とともに葵ちゃんに会っている。
日々、葵ちゃんの表情は豊かになっている。
嬉しいかぎりだ。
「今日、チョコレート作りに挑戦してみたんですよ。」
葵ちゃんは車椅子に乗り、楽しそうに言った。
「ああ、そうか。今日はバレンタインだね。」
俺は優しく微笑みながら言った。
葵ちゃんと茜、鈴歌が一緒になって笑う。
「そうです!バレンタインですよ!」
「女の子が大胆になる日なのにねえ?」
「それを忘れてるなんて・・・」
葵ちゃんが楽しそうにいい、あとの2人は溜め息をつく。
葵ちゃんは小さな箱を俺に差し出してきた。
「食べてみてください。おいしくないかもしれないですけど・・・」
葵ちゃんの頬がほんのりと朱に染まる。
俺はそれに手を伸ばし、
「ありがとう。食べてみるよ。」
俺は軽く葵ちゃんの手に俺の手を重ねた。
トンッ
俺の頭に何かが載せられる。
「見せつけてくれるわね?」
茜の声。
トンッ
さらに頭に載せられる。
「私たちはどうでもいいみたいですね?」
鈴歌の声。
久しぶりに怒っている鈴歌の声を聞いた。
「これはそんなんじゃなくてだな・・・ただ、お礼を言っただけなんだが・・・」
「その割には幸せそうだったわよ。」
「まるでハートが空を飛んでいるみたいでしたわ。」
「本当。私たちがいるの忘れてたわよね?」
「せっかく、私たちも用意しましたのに・・・」
鈴歌が泣くまねをする。
「いや、ごめん。忘れてたわけじゃないんだよ。」
俺は頭に載せられたものを取ってから鈴歌に謝った。
「あら?私は無視するの?」
茜が俺を睨みつける。
あっちをたてればこっちがたたず。
やっぱり俺は人付き合いが苦手だな・・・と痛感した。
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