中学T



作・S





「だりぃ…」

太陽が輝くなか、そう呟いた。

「どうした?パワプロでもやっとったんか?」

「そっちの方がマシだ。なんでこんななかでテニスなぞせねばならん?」

「仕方ねえじゃん、俺らテニス部だし。」

高橋が俺をなだめるように言った。

「なんで最後の練習がこんなにきついんだ、高橋?」

「お前がソフトテニスを愛してないからじゃ?」

「むう…やはりラケットがあるくらいで部活きめちゃいかんな。」

俺は顎に指を滑らせ考えた。

「ところで洋邦…いいかげん柵越えはやめろよ…」

「いいじゃん、どうせ取りに行くの俺だし。」

「そうだな…あっ、次は試合だぞ。」

練習が終わりみんなが集まり始めているのをみて、高橋が言った。



「やっぱりテニスは苦手だ。」

俺はラケットを弄びながらひとりごちた。

試合でストレート負け。

俺は前衛なのに一回もスマッシュどころかボレーも決めていない。

後衛の奴からも文句を言われる始末。

「まあいい。ボールでも取りに行くか。」

俺はそう考え、歩きだした。



うちの中学−島長第三中学校は長崎の田舎に建っている。まあ、田舎とはいっても“島原の乱”で有名ではある。後は“名水の里”とか“雲仙普賢岳噴火”、“島原大変肥後迷惑”で有名かな?

たまにテレビ収録もやってくる。

うちの中学は他よりも高い所に建てられているからボールを取りに行くとき、まわって行かないといけない。

「ボール〜ボール〜、ボールはどこだ〜?」

コートの裏にまわり、ボールを探しはじめる。

いくつかのボールはすぐに見つかる。

「2、4、6、8…あと2個か。」

俺は探し続けた。

「あ、あった。最後の1個。」

公園の中にあるのを見つけた。

「あんなとこまで飛ぶとは…筋力がずいぶんついたんかな?」

俺は自分の右腕をさすりながら、ゆっくりと取りに行った。

「あれ?」

ボールの近くに赤く汚れた布が落ちているのを見つけた。

触ると、固くなっている。

「ペンキ?いや、それにしちゃ汚い。血かな?」

俺は辺りを見回した。この公園にやってくる人などめったにいない。

こんなものが落ちているのは異常だ。

消防車を模したジャングルジムに人がいるのを見つける。

まったく動かない。

「死んでんのかな?」

俺はその人に近寄って行った。

近寄るにつれて不思議な匂いが俺の鼻をつくようになる。

「へえ。初めてだな、こんなのは。本当にあるんだな、こんなこと…」

その人は体中に固くなったものがこびりついた状態で失神していた。

体の所々に擦り傷や打ち身がある。

「状況から考えるに…強姦か。しかし、どうするかな?このままほっとくわけにもいかんし。」

そう思っていると、その人が目を覚ました。

「や、やあ…」

あまりに突然だったので、つい間抜けな事を言ってしまった。

「い、いや…もう止めて…痛いのはもうやだ…」

その人は怯えて、体を震わせていた。

とりあえず、洋服は破れてはいるが着れないわけじゃなさそうだ。

まあ、胸と股の所が破り取られているので、このままで動くことはできないだろうけど…

このまま放っておくと、この人はまた同じ目にあうかもしれない。

だったら、一度、家に連れて行ったがいいかもしれない。

「おい、背中に乗りな。その格好じゃ、歩けねえだろ?」

「え…?」

おろおろしている。

どうやら、パニクってるらしい。

こういうのはかわいいのだが、時間を掛けると他の人がやってかないとも限らない。

というか、こういうのをかわいいと思う俺って…変態か? まあいい。

パニック状態の人は強く言われると、それに従うと何かで読んだ事がある。 試してみるか…

「さっさと乗れ!」

「は…はい!」

その人が乗ってきた。

女性特有の柔らかさが俺の背中に感じられる。

………

主に胸の感触が。

「やわら―軽いな…」

俺はそう呟いた。



「おい、高橋!」

技術室の裏側に隠れ、近くにいた高橋を呼ぶ。

技術室は学校の出入り口の近くなので、いろいろと使いやすい。

昼休みに抜け出したいときは、大抵この出入り口を使う。

「なんだ、洋邦?」

高橋が俺に近付いてきた。

「はい、ボール。あと、俺はもう帰るから荷物をあとで家まで持ってきてくれ。」

「そりゃいいが…その子、誰だ?」

高橋が女の子を見て尋ねる。

「知らん。だから帰るんだよ。きたときに詳しくは教えよう。」

「わかった。お大事に。」

高橋はボールを持って行ってしまった。

具合が悪くなったから帰ったとでも言ってくれるだろう。

俺は家へと帰り始めた…



俺の家は学校から徒歩5分で着ける。

遅刻とは無縁とおもわれやすいのだが、以外に家が近いせいで遅刻することも多いのだ。

遅刻大王という、有り難くないあだ名をもらったこともある。

一度、昼休み頃に学校に遅刻していったらこっぴどく怒られた。

当たり前だけど。

「あの…お風呂でました…」

女の子が風呂からあがってきた。

洋服は俺のを貸してある。

下着は流石に用意できなかったが…

「ああ。体、大丈夫だった?しみたりしなかった?」

「少し痛かったですが、大丈夫です。」

「そうか。」

女の子は独特の黒い肌を赤くしている。

恥ずかしさからくるのだろう。

確かに、会ったばかりの男にあんなあられもない格好をみられては恥じらいもあるだろう。

「名前、教えてくれる?」

「はい…サハユォル・ハヤシ・マスバールです。」

「わかった。俺は松尾洋邦。よろしくな。」

「あ、はい。」

女の子が返事をする。

だいぶ元気を取り戻したようだ。

しかし…名前から察するにハーフかクォーターか。

差別かな?

いや、外人嫌いな奴のせいかもしれない。

意外とそういう奴っていっぱいいるからな。

そういや…見つけた辺りにはゴムとか薬の空とかなかったが、大丈夫なんだろうか?

避妊してなかったら…もしも妊娠してたらどうするんだ?

ま、強姦なんかするやつがそんなこと考えてしないか。

でも、一応は確認しないとな。

どうやら俺と同じ年位だと思うのだが…

しかし、聞くのはためらわれるし…

「あの…?」

「へ?あ、何?」

考え事の途中で声を掛けられ、とまどる。

女子と話すの苦手だしな。

犬と高い所は完璧に駄目なんだが…

「どうしてここに?」

なるほど…確かに説明もなしにこんなところに連れてこられたんだもんな。

さらに…強姦されたということもあるし。

まだ決まったわけじゃないけど。

さて…どうするかな?

強姦されてたみたいだから連れてきたとか言ってもただの馬鹿だし。

そもそも、なんだその理由は?て言われそう。

だからといって一目惚れしたとかもいえないしな。

冗談通じなさそうだもん、この娘。

うむ。

危険だった。

これでいいな。

少なくとも、俺にはそうみえたし。

「あんなとこにあんな格好で放置されてたら危険だと思ったんだ。誰かにみつかったら通報されるだろうし。」

「そうですか…」

しっかし、この子日本語上手いな〜。

サハユォルだっけ?

密入国者ってわけじゃなさそうだ。

それで三中にいないってことは…高校生かな?

社会人かもしれない。

それにしちゃ胸がむちゃくちゃ幼いし、背も低いけど。

まあ、見掛けによらない人っていっぱいいるしそんなんの一人だろ。

「家に帰る?送ってくよ?」

まだ正午を少し過ぎたところだが…いいか。

このまま居らせても何もすることないし。

「家?」

「そう。」

「泊まってくれる?」

「なっ…」

俺は絶句してしまった。 落ち着け…落ち着け、俺?

たぶん、一人だと怖いんだよ。

あんな目にあったあとだし。

だからだ。

断じてふしだらな気持ちからではない。

「お〜い、洋邦〜」

玄関から高橋の声がする。

天の助けだな。

俺はサハユォルに待っているように言ってから玄関に行った。

荷物を受け取ってからサハユォルについて説明する。

「なるほどな…」

高橋は頷きながら言った。

「どうしたがいいかな?」

「記憶さえ消せばいいじゃん。あの人に頼んでみたらどうだ?」

「小田切さんか?」

「そうそう。メールでの付き合いだけどこの際頼んでみれ。」

「大丈夫かな?」

「大丈夫じゃなかったら断るだろ?思い切っていこうぜ。」

「そうすっか。じゃあ、あとで根本連れてこいよ。」

「了解。」

高橋はそう言って帰って行った。

「こっちはどうするかな?」

そう呟いて居間へと戻った。



「ふう…たすかった。」

サハユォルは眠ってしまっていた。

寝息とともにときどき悩ましげな声がサハユォルの口からもれてくる。

そのたびにどきどきさせられる。

俺はなんもしちゃいないんだが、気になるもんは仕方がない。

「なんの夢みてんだろ?」

他人の夢なんてみれるわけがないんだが。

「さて、さっさと用事を済ますか。」

俺はパソコンをたちあげ、メールを出す。

すぐに返事が返ってくる。

OKだった。

とりあえず一週間後に迎えに来てもらうようにする。

俺はパソコンをスタンバイ状態にしてサハユォルにタオルケットをかけた。







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