8、実力



作・S





「…注目の対戦です!こんなことがあって良いのでしょうか?!!なんと、2日目・第二戦は沖縄松蔭対SAです!昨年の決勝戦が今、再び行われようとしています!」

試合が始まった。

神岡の調子は良かったが相手が悪く、一回・二回はなんとか三人で片付けるが三回・四回には走者を出してしまった。

打線のほうは、相手校のエース・那珂餅に四回まで完璧に抑えられてしまう。

神岡が五回、一死満塁としたところで本来のレギュラーに入れ替わった。

「神藤」

「はい?」

「しっかりと見てろよ。」

俺は、松尾キャプテンからそう言われた。

一球目

ど真ん中のストレート。ズドンという音と共にミットにおさまる。

すぐにキャプテンは一塁に送る。一塁ランナーは戻れず、ツーアウトめ。

二球目はスライダー、三球目はフォークで三振。

流れを引き戻した。

このあとも西田先輩は、八回まで相手打線を無安打に抑える好投をみせる。

一方、打線はチャンスを作るが要所を締められ得点できない。

お互いに無得点のまま九回を迎えた。

西田先輩が先頭打者を四球でだしてしまう。

続く打者に送りバントをされ、一死二塁。

次の打者は三塁ゴロだったが、イレギュラーし一死一・三塁となる。

ここで打者は那珂餅。

二球続けてストレートでツーストライク。

三球目は…

ズドンッ…

「カーブ…なのか?」

ストレートと変わらない速度で落ちるカーブ。

球速表示は152qだ。

「ナイス!竜一!」

「サンキュ!松尾!」

二人が並んで帰ってくる。こんな人達に勝とうと思っていたのか…

自然と笑いが込み上げてくる。

裏の攻撃、高橋先輩が二塁ゴロに打ち取られたが西田先輩が中堅前ヒットで出た。

ここで、4番・キャプテン。

自然と球場のボルテージが上がっていく。

一球目。

内角低めのストレート

キンッ…

打球は…

バックスクリーンへと吸い込まれていった。

この試合で勝った俺たちは一〜四回が1年、五回から3年といったやり方で勝ち進んでいった。



そして準決勝。

抽選の結果

長崎・島長高校 対 南北海道・聖クラリス学園

北北海道・SA学園 対 横浜・青柳学園

となった。



ホテルのロビーでコーヒーを飲んでいると、千里がやってきた。

何も言わず黙って座っておく。

「明日は準決勝だね。」

千里が話しかけてくる。

「ああ。強敵だな。」

「20奪三振だったっけ?」

「ああ。しかも、ノーヒットノーラン。相手はBL学園だった。」

溜息が自然と出てくる。

明日の相手には、神岡を上回る…神岡も今大会屈指の好投手だといえる…なのにそれを二枚は上回っている好投手が相手だ。

確か…水田という名前だ。同じ1年生で、来年の甲子園での注目選手だろう。

「つらい相手だよな…」

甲子園にきてからはまだ一本もヒットを打てていない。早く一本打ちたいという焦りが、早打ちを誘う。そして、凡打になるという悪循環だ。

「明日は大丈夫よ!」

千里は俺の心中を察したのか励ましてくれる。

「ああ、そうだよな」

元気付けられたところで何の解決にもならないが、一応、のっておく。

余計なお世話だ、とか言っても悲しくなるだけだしな。

「そうだよ…あ、もう夕食の時間だよ。」

千里が立ち上がり、食堂へと向かおうとする。

その姿がなぜか俺に不安を覚えさせた。

まるで…千里が俺を置き去りにして未来へと進んでいくかのような…

俺と千里の未来は少しの間しか重なり合わないような…

「千里・・・」

「ん?なに?」

千里がこっちを振り向く。

なにを不安がってるんだ俺は?

千里がいなくなるはずないじゃないか。

どうしてこんなこと考えてしまったんだ?

「いや、なんでもない…一緒にいこうぜ。」

「うん。早く行かないと、みんな食べ終えちゃうわ。」

千里が俺の腕を引っ張る。

そうされながら、俺はさっき思ったことを忘れようとしていた。



「明日はレギュラーが先発なのか…」

俺は部屋に戻ると、溜息をつきながら日記を書いて寝た。

DJ.MASATOの声が聞けないのは寂しかったが…

まあ、仕方がない。







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