7、開幕
作・S
夢にまでみた甲子園
今、その夢の場所に立っている
そして、そこにより長く立ち続けるために…俺達は勝ち続ける
「さぁ〜、ついに甲子園が始まります。思えば多くの改革がなされました。」
「一昨年、テレビの前の皆様にも記憶に新しいことでしょう。親の転勤以外で転校した生徒の一年間公式戦出場停止というものがなくなりました。」
「その大会では、創部一年目・高校創立一年目というSA学園が台風の目となり、甲子園初出場・初優勝を飾りました。」
「これも、一昨年のからことではありますが、日本の高校選抜チームと東南アジアの選抜チームの親善試合も始まりました。」
「こちらのほうは、一年目は東南アジア選抜チーム、二年目は日本選抜チームの勝利に終わっています。」
「この親善試合はスカウトにとってもよいもので、外国人枠が緩くなり、一試合に同時に出せるのは9人までとなったこともあって、若手で有望な外国人・日本人の見極めに来ています。」
「そして今年、女子の大会出場が認められました。出場校にも女子校が三校、メンバーに女子の名前があるところが四校と男子に負けない女子の強さをみせつけ、甲子園出場をしています。」
「さあ、甲子園の開会式が始まりました。注目の高校を挙げていきましょう。」
「まずは、春夏計4連覇を達成し、夏の3連覇を目指すSA学園です。地方大会では正捕手・松尾、遊撃・高橋が出てきませんでしたが、名前はあるようなので甲子園では出てくるでしょう。優勝候補NO.1です。」
「次に、昨年の決勝では涙を飲んだ沖縄松蔭高校。エース・那珂餅は万全の仕上がりで、昨年の決勝戦を決めた本塁打を放った松尾を完璧に抑えるでしょう。優勝候補の一角です。」
「激戦区・大阪の覇者・BL学園。低迷が続いているとはいえ、野球名門校。今年は黄金時代を築いた頃のように絶対的なエース・辛島、四番・古嶋の入学があり、優勝候補に挙げられます。」
「大阪と同じく、激戦区・北東京と南東京代表の東帝学園と秀公館です。東帝学園は甲子園の常連校、昨年もベスト4に残っています。ここも優勝することは十分可能でしょう。秀公館のほうですが、昨年ベスト8だった実島高校を破っての出場です。女子校ではありますが、その力は本物でしょう。」
「北北海道がSA学園ならば、南北海道は聖クラリス学園です。女子校ながら、今大会で旋風を起こすことができるでしょうか?」
「長崎代表・島長高校。初出場校です。公立の進学校ながら出てきました。こちらも楽しみな存在です。」
「全国でもっとも出場校が少ない鳥取の代表校は、こちらも女子校の東邦学園です。プロ注目の鵜瀬君率いる浅葉高校は涙を飲む結果となりました。」
「春の準優勝校、広島・可香三根高校。好選手・七峰が率いています。優勝に絡んでくるでしょうか?」
「平均身長・155pというもっとも小柄なチーム、愛媛・三城島高校。どのような戦い方を見せてくれるか楽しみです。」
「岩手・梨山高校。地方大会打率・9割を超え、本塁打15本・打点34という恐るべき打の怪物、一年生・真宮がいます。全国の投手あいてにどこまで戦えるでしょうか?」
「こちらは宮崎・英才付属に属する一年生・岸和田。地方大会準々決勝では27奪三振の完全試合と投の怪物です。全国の強打者とどこまで渡り合えるでしょうか?」
「各校の入場が終わりました。選手宣誓は、秋田代表・野乃峰高校の主将・大城君です。」
大城が前に出て、選手宣誓をするも、その中には女性への差別的言葉が含まれていた。
高野連はこの言葉に対しての警告をせずに、進めてしまったため全国と女性の力を認める多くの球児達からの反感を買い、更に、出場女子校の大活躍も相成って謝罪をすることになる。
「さあ、とうとう本戦が始まります。第一試合は鳥取代表・東邦学園対秋田代表・野乃峰高校です。まもなくプレイボールです。」
「お〜い、神藤!今から外にでないか?」
山崎が気軽に言ってくる。
「なんだ?なにかお勧めでもあんのか?ナンパなら付き合わないからな。」
とりあえずは釘を刺しておく。こんな所まで来ていかがわしいことに付き合わされるのは嫌だからな。
「何いってやがんだよ!新たちに会いに行くんだよ。」
少々驚いたが、一緒に行ってやることにした。
「で、どこにいるかわかってんのか?」
宿をでてから山崎に尋ねる。
「ああ。根本先輩がいうには俺らの宿の近くに泊まってるらしい。」
何で根本先輩が知っているのかはあえて聞かない。
「ふ〜ん。あれ?あれは新じゃないか?」
俺たちは道路を歩いている新をみつけた。
「新!何してんだ、こんなところで?」
「ん?おお・・・神藤に山崎じゃねえか。どうしたんだ?」
「なにいってんだ。お互い甲子園に来たんだし、少し話そうとおもってな。」
「そうか…じゃあ、喫茶店にでもはいるか?」
「そうしようぜ。な、神藤。」
「ああ、そうだな。」
俺たちはすぐ近くにあった喫茶店「COFFEE32」に入った。
そこで他愛のない話をし、お互いの健闘を祈って店をでた。
「あれ?」
新が近くのファミレスをみて声を出した。
「どうしたんだ?」
俺と山崎もみてみる。
「うちのキャプテンがいる…」
そういって、新が指をさした。
「あれ?高橋先輩と松尾キャプテンじゃないか?」
俺たちはその指のさすところをみていった。
「どうして一緒にいるんだろう?」
「わかんないな。とりあえず、見なかったことにしよう。」
俺たちはお互いが見たことを忘れることにして別れた。
もちろん、決勝で当たることを約束して…
「なんと初戦から女子校は大活躍です。野乃峰高校相手に10-1の完勝!新時代を予感させるスタートとなりました。」
「それではハイライトを見ていきましょう。」
「先ず、一回裏。野乃峰高校が二死ながらも走者三塁で4番・鳫。しかしながら、東邦学園の先発・野乃村が気迫あふれる投球で三振にとります。」
「直後の二回表。東邦学園が先頭打者の安打を皮切りに野乃峰高校先発・堂賀を攻め立て無死・満塁とします。ここで7番・白鳥美卯。落ちるスライダーを完璧に捕らえて中堅を破る2点二塁打とします。更に、8番・白鳥花梨がストレートを右翼線に落とし走者一掃の二塁打。9番・野乃村は一塁ゴロで倒れるも、尚、一死・三塁。1番・紙野が初球スクイズをし、これが見事成功となります。2番・生見は遊撃ゴロのダブルプレイとなるも、序盤で5-0とリードします。」
「野乃峰高校・東邦学園ともに四回・六回・七回とピンチを背負うも粘りの投球で切り抜けます。」
「再び試合が動いたのは八回。先頭の9番・野乃村が三塁手の後ろにポトリと落ちる技ありの安打を放ちます。1番・紙野、2番・生見も続き再び無死・満塁とします。ここで、いままで無安打の3番・水城。フルカウントから粘って12球目。甘く入ったスライダーを打ち中堅前安打。尚も満塁で4番・桃瀬。野乃峰高校は二番手・奥羽良をマウンドへ送ります。ツーストライクと追い込んだあとの3球目。外角低目のストレートを叩いて満塁本塁打。これが今大会第一号本塁打となります。」
「この裏から東邦学園は野乃村にかわって箭本を送ります。」
「九回裏、野乃峰高校は1点をかえして二死ながらも満塁とし、二安打を放っている3番・志村。しかし、右翼フライでゲームセット。」
「東邦が勝つとはな…」
「一回だな…あのチャンス、4番なら打つべきだった。」
帰ってきた松尾キャプテンと高橋先輩がテレビを見ながら言った。
ほかの部員もテレビで流された結果を聞き、様々な事を言い合った。
そのあと、夕食の時間に明日の先発メンバーが発表された。
地方大会と変わらないメンバーだった。
俺は寝る前に日記をつけた。
内容は…明日への期待と不安…そして、松尾キャプテンへの疑問だった。
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