3、思い



作・S&M





「そんな顔するんじゃないの!」

いきなりの大声に俺は驚いた。

「なんだ、千里かよ。別にいいだろ。俺がどんな顔してても。」

そう言って俺はまた窓の外を眺めた。

「ちゃんとこっちを見て!そんなの神藤君らしくないよ。」

そう言われて俺は千里の方を見た。

自分がネガティブな考えをしていたからだろうか?

千里の顔がとても光っているようにみえた。

「………」

綺麗だよな…彼女にできたら幸せだろうな…

「どうしたの?なんかボーっとしてるよ?」

はっ!?いかんいかん、これじゃただの変な人だ!

「いや〜先輩達どうしたのかと思ってさ。」

嘘ではない。

先輩達がなぜバスに乗っていないのか気になっていた。

「本当ね。案内してくれた人も一葉さんから双葉さんに変わってたしね。」

そういえば変わっていたな…なにがあったんだろう?

もしかしたら…

「もう!神藤君はそんな顔したらだめっていってるでしょ!」

また怒鳴られた。

「わかったよ!ったく、うるせぇ奴…。」

前言撤回…千里はかわいくねぇ…学校じゃぁもててるけど…ね。

そしてまた窓の外を見た。

雨…降ってきたな。

「また当たったね。」

俺はまた千里の方を見た。

「神藤君天気予報!」

千里は笑顔で言った。

また変な名前をつけやがって…

「はずすわけないだろ。神藤君天気予報なんだからよ。」

そう言って俺は野球帽で目を隠した。

なんとなく、涙がでそうな気がしたから…

「ありがとな…千里…」

「誰かチョコ持ってねーかぁ?」

…山崎(怒)

「山崎、俺のバックにあるぜ。ビターだけどいいか?」

山崎は目を輝かせて

「マジ!?恩に着るぜ!」

まったく…憎めない奴だぜ…

「なあ神藤…先輩達どうしたんかな?」

チョコを取りに来たついでに山崎が聞く。

俺はイスに背中を預けた。

「さあな…今は今日の反省をするしかないんじゃないか?」

俺は目を閉じた。

「そうだな…」

山崎はチョコを齧りながら席へ戻っていった。





「洋邦さん…なぜあなたは私に投手としてでることを禁じたのですか?」

洋邦は赤くなり始めた空を見上げていた。

「あれは未完成だ。今、君が出れば必ず使ってしまわなくてはならない。そうしないと、俺たちは抑えられないからね。俺は君を危なくするわけにはいかないんだ。」

「…私のブレードが完成するのは…まだなんですか…?」

「わからない。…ただ、君のブレードが完成するまで、俺は君ためにどんな特訓でもするつもりさ…」

「洋邦さん…」

二人はしばらくみつめあった。



そして…その壁の向こう側の3年一同…

「やるねぇ!あいつも。」

高橋が笑いながら言った。

「ふっ、まさかこんなシーンを見れるとは…」

竜一もニヤけていた。

「洋邦の奴ぅぅ〜!!裏切りよってぇぇ〜!!…まっいっかっ…ムフッ(笑)」

怒っていた総将もニヤけた。

そして3年一同…

「ウッシッシッシッ!!」

大笑い!





バス…着いたみたいだな。

「それではみなさんお疲れ様でした。今日のような試合が予選でもできるといいですね。では、御機嫌よう。」

双葉さんは微笑んで帰っていった。

「俺、双葉さんでもいいなあ。」

山崎がぼやいた。

「そうか。告白しにいったらどうだ?」

千里を探しながら適当に返す。

「そうだな…当ってくだけろっていうしな!よし!いってくる!」

山崎がいきなり駆け出した。

「あら?そんなに急いでどこに行かれるのです?」

いつの間にか一葉さんがきていた。

「あれ?一葉さんどうしてここに?」

一葉さんは微笑んだ。

「…いっいやですね!ちょっと走り回りたい気分でしてね…ぃいやっほぉー!」

や…山崎がバカになった…

「あらあら、山崎さん走り回ったらいけませんわ。」

「はぁぁーい!」

山崎はスタスタと俺のところに戻ってきて笑った。

「えへへっ!失敗しちゃった!」

ドゴッ!

俺は小田切さんたちに気付かれないように山崎を殴った。

音は聞こえたかも知れないが…

「なぁぁにが『えへへっ!失敗しちゃった!』だ。このバカ野郎!!」

小声で怒鳴りつける。

「はははっ!神藤ごめんよ!それよりもさ、千里ちゃんって美里ちゃんと友達だよね、よかったら今度アドレス教えてくれなっ!」

「えっ、ええいいわよ。美里が許したらね。」

山崎が飛び跳ねて喜んだ。

「イヤッホー!嬉しいぜ〜それじゃ二人とも早く帰ろうぜ〜!」

もう…何が何やら訳がわからんな。

「それじゃ、キャプテンおつかれさまでした。」

顔を赤くしているキャプテンに挨拶していく。

…初めて見たなあんなキャプテンの顔…





「一葉…あのキスはなんだったんだ?」

洋邦はバイクに乗って聞いた。

「何って…お礼ですわ。他の意味もありますけど…」

一葉は頬を染めてこたえた。最後の方はか細い声だった。

洋邦はそれでも、すべてを聞き取っていた。 「乗れよ…送っていくぜ?」

洋邦も頬を染めていた。





「やっぱすげぇな、おやびんたち…。」

山崎が俺に言ってきた。

「うん?あっ、ああ…。甲子園の決勝の時以来だな…。」

「あぁ、あの時よりレベルアップしてたな。」

俺たち二人に沈黙が続いた。

「神藤君も海渡君もみんな上手になるよ…先輩たちのほとんどが才能じゃなくて努力だけで登り積めたんだって。神藤君と海渡君も才能があるんだから先輩たちより努力すればいつかきっと先輩たちより上手になるよ。」

千里は俺たち二人を元気づけようとした。

「ち…千里ちゃん…いい人だねぇ、アンタって人は…」

山崎の突然ギャグモード

「ようし、そうと決まれば神藤!俺バッティングセンターよってくから。」

山崎はいきなり言い出した。そして俺の耳元で囁いた。

「上手くやれよ。千里はお前に惚れてるぜ。お前も惚れてんだろ?他に取られねえ内に付き合えや。」

気が動転してしまった。

俺のことを千里が好きだなんて…

「神藤くんはどうするの?」

や、やばい…落ち着け〜俺

「俺はコーヒーでも飲んでいこうかな。どう、一緒に?オススメの喫茶店があるんだよ。」

よ、よし。極めて自然な誘い方だ。

「えっ…いいわね。それじゃいこうかな。」

おわっ?!成功した?

喫茶店に着いた。

俺たちはなかに入ってコーヒーを頼んだ

「明日からまた学校だね。」

「あぁ、面倒だな。」

山崎の奴余計なことしやがって、後でしめてやる。

「神藤君の天気予報ってよく当たるね、感がいいんだね。」

「感じゃねーよ。ちゃんといろいろなことを分析してるんだよ。」

「なぁ、千里…」

告白しようとした瞬間、俺の頭の中で去年の甲子園が流れた。先輩達の姿が眩しい。

ごめん、山崎…今はまだ無理だ。

「俺たちが甲子園にでて…俺たちの高校が優勝して…俺たち1年が三年になって引退するまで…俺たちを支えてくれねぇか?」

「もちろんよ。そうしようと思ってマネージャーになったんですもの。」

「そ、そうだよな。変な事聞いてごめん。」

俺も千里も笑った。

今はこの関係のままでいいかと感じていた。

「そうだ。私の家に来てみない?弟が野球してるのよ。」

家か…上手くいけばまた告白のチャンスができるかも…て、なんでまたこんな事思ってんだ?

「んじゃ、行ってみようかな。その弟くんポジションは?」

千里は笑って

「捕手よ。でも、バッティングの方がまったく駄目なのよ。」

コーヒーを飲み終えて喫茶店の外にでた。

外はどしゃ降りの大雨、俺たちは傘をさして千里の家に向かった。

途中で電車の踏切のところで止まった。

「千里…俺が甲子園に出て、決勝で竜一先輩の全力のストレート球を捕って優勝ができたら…俺はお前にこう叫んでやる…
『俺は千里が好きだ!』
ってな。レギュラーになるために俺もバッティングセンターにいってくるよ…じゃあな。」

そう言って俺は走ってバッティングセンターに向かった。

甲子園で…優勝するまで…な



おわ〜どうしよう?

俺何言ってんだよ〜神岡って言うべきだったな〜

先輩が全員転校でもしない限りレギュラーなれねえのにな〜

はあ

俺がバッティングセンターの前にきたとき、山崎と会った。

「あれ?もう帰るのか山崎?」

山崎はいきなり声をかけられてビックリしたようだ。

「おわ〜ビックリしたな〜いきなり話しかけんなよ。」

「ははは、ごめん。で、何してたんだ?」

山崎は中を指差した。俺がそこをみるとそこには…

閉まったバッティングセンターがあった。

ハハッ当たり前か…

「神藤ー、ちゃんと告白したのか?」

山崎が少しからかいぎみに言った。

「一応告白はしたさ。」

「てことは、二人はめでたく付き合っ…」

「付き合ってねぇよ!」

山崎は驚いた顔で

「ウソだろ!?神藤、振られたのか!?」

「振られてもいねーよ!」

「んじゃどういうことだよ?」

俺はいままでの出来事を山崎に話した。

「なんだ、んじゃ行こうぜ。」

「おいっ!行くってどこにだよ。」

「レギュラーになるんだろ?俺がピッチャーやる…いいだろ?」

「へっ…格好つけんじゃねぇよ。お前はふざけてる方がいいぜ。」

すまねえな山崎

心では有難く思うぜ。

「ははは、そうだな。俺に真面目は似合わないな。」

山崎は笑っていった。

公園につくとキャッチボールから始めた。少しずつ球を速くしていく。

「山崎〜そろそろいいか〜?」

「いいぜ〜」

俺は腰を下ろす。

ミットでコースだけを指示する。

スパァーン

なかなかの球だ。ほとんど狂いはない。

「ナイスコントロール!流石だな。」

本当に凄い。

「当たり前よ!俺様だぜ!」

調子に乗ってるなあ〜まあ、それが、山崎らしい所なんだが



その日の夜俺は今日もラジオを聞きながら日記を書いた。それにしても今日はいろんなことがあった。今日あったことを全部書いたらいつも1日1ページだったのが今日は4ページも書いた。

ラジオを聞いていると

「ペンネーム・ふさ大魔王さんからいただきました。『最近振られてばかりです。やはり僕じゃ無理なんでしょうか?』あぁ、いつも手紙をくれてるふさ大魔王さぁ〜ん、いつかきっと運命の人出会えること信じてください。MASATOはみんなの味方ですよ。」

これは総将先輩だ。山崎とまっさんの三人はたまに応募している。

そういえば方尾に返事はしたんだろうか?

割とかわいいと思うんだけどな…明日、聞いてみるかな?

俺はベッドに横になるとすぐに眠ってしまった。






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