2、実戦



作S&M



千里が家に呼びにきた。

一緒に学校へ行く。

「今日の練習試合頑張ろうね。」

千里はやる気満々だった。

校門のところでキャプテンと西田先輩がバイクで来ているのを見つけた。

「キャプテン…なんでバイクなんですか?」

キャプテンはこちらを振り向くと

「な〜にたまには動かさんとヘソまげるからな。」

キャプテンはバイクを手で優しく撫でた。

「・・・で捕手の件はどうするんだ?」

「キャプテン、今日の練習試合…僕を捕手として出してもらえますか?」

「そうか…決心したんだな」

先輩は眼鏡を上げて

「わかった。案内にクラリスの副キャプテンがいるから、総将のところに集まっておいてくれ。俺は後からクラリスのグラウンドに行くから。」

そういって去っていった。


俺たちが総将先輩のところにつくと小田切さんがバスを連れてきていた。

「彼らで全部ですか?総将さん。」

「いやあと洋邦と高橋が…いやあいつらはそのまま行くんでしたな…これで全員です。」

小田切さんは微笑んで

「それでは御案内いたしますわ。先に注意させて戴きますが、私が指示させて戴いた道以外を行かれるとどのようになられても責任を負いかねますので。」

「はぁ〜い」

みんな声を揃えて返事した。

そのうちの3分の2くらいが鼻の下を伸ばしていた。

残りの3分の1は神岡やら彼女がいるやら・・・あと総将先輩が珍しくなんの反応がなかった。

やはり何十回も振られたのがこたえたのかな。

「神藤ー!!一緒に座ろうぜ!」

この声は山崎!

「やだ。」

「なはは!そんなこと言うなよ〜!」

山崎が頬擦りしてくる。

「分かったよ。だから止めろ。」

俺は山崎を引っぺがした。

そして俺たちは昨日のラジオの番組の話で盛り上がった。

今人気の歌手の歌のことやゲストのこと司会のDJ.MASATOのこと等を話しているうちに聖クラリス学園についた。

俺たちの2倍はある巨大な門

その両脇に構える屈強な警備員

そして…巨大な学校

「凄いな…」

俺は千里に言った。

「予想よりも大きいわ…」

千里も雰囲気に飲まれていた。

「それではグラウンドに案内しますわ。」

一葉さんが相変わらず微笑んで言った。

「おっおいっ神藤。あの警備員の服着たねえちゃんは野球部じゃないのか?コスプレでもしているのか?」

…鈍感というか…バカというか…我が幼なじみとして情けない

「んなわけねぇだろ。」

「ならどういうことだよ。」

「そんなの俺が知るわけねーだろ!」

「…それもそうだな。それよりも、あの小田切さんかなり俺の好みど真ん中だぜ!!」

「切り替えのはやい奴め…。」

「なはははははっ!その言葉、誉め言葉として受け取っておくぜ!」

こんな調子のいいことをいっていても、野球部では守備が1年の中でずば抜けてうまい。

グラウンドにはもう高橋先輩とキャプテンがいた。

「やっときたな〜お前ら。」

小田切さんが申し訳なさそうに

「すみませんわ。松尾さん。この方達がなかなか進んでくれなくて…」

キャプテンの目が厳しくなった。

もっとも眼鏡があるのであんまりわからないが…

「まったく、お前らは。いくら美人ばかりだからって迷惑かけてんなよ。」

「あら、いやですわ。美人だなんて。」

「いやいや美人ですよ、こんな美人と試合ができてこちらも嬉しいかぎりです。」

キャプテンまで鼻の下を伸ばしていた。

キャプテン…あんたって人は…

そのこと誰より怒った奴がいた。

「松尾先輩!僕というものがありながなんてことを言うんですかっ!それとも僕と過ごしたあの夜は 嘘だったんですかっ!」

神岡だった。

「バッバカッ!誤解を招くようなことを言うな!大体いつそんな夜を過ごした?!」

神岡は素知らぬ顔をしている。

みんなが笑っているなか小田切さんが冷静に

「皆さん勘違いしているようですけど、皆さんの相手はこちらですわ。」

「確か二軍の約束でしたよね?」

突然キャプテンの顔が引締まった。

さっきのはみんなをなごませるための演技だったのだろう。

「ええ。あなた方も二軍なのでしょう?」

「もちろん。ちょうど力が釣り合いますから。」

二人がお互いに牽制しあう。

…怖いなあ

「というわけで1年のみで闘ってもらう。」

そこに相手の二軍チームがきた。

約2名ほど例外がいるが美人ばかりだ。

「それではお約束通りにお願いしますわ。」

「お任せください。」

挨拶を済ませてキャプテンが帰ってくる。

「というわけで気を抜かぬようにな。負けた場合全員にランニングでの帰校を強要する。」

その言葉に1年全員の顔が引締まった。

「わかりました!!」

キャプテンは一通り見回して

「よし。では、スターティングメンバーを発表する。
1右翼・新条
2三塁・神楽師
3捕手・神藤
4中堅・中嶋
5投手・神岡
6一塁・児玉
7二塁・橋本
8左翼・頼梨
9遊撃・山崎
だ。あとの者はベンチだ。後の指示は大平にまかせる。」

「さてと俺たちはいつもどおりだ。あと、3時間後には帰ってこい。んじゃ、いくぞ。」

先輩たちはそれを聞いて散らばっていった。

「よぉーし!いくぞー!」

「おぉー!!」

大平先輩のかけ声と同時に俺たちは気合いをいれた。

投手が神岡…西田先輩ほどじゃないけど投手としてはかなりのものだ。

ここはやはりあの作戦でいくしかい!

「神岡、球投げるときおさえてくんねーか?」

「えっ、なんでだよ?」

「いやぁ…な、初めてなんだ、捕手やるの。」

「……なにぃぃーー!!どういうことだよ、それ、俺はてっきり慣れているのかとおもえば…」

「キャプテンにたのまれてさ。」

「松尾先輩!!仕方ねぇなぁー、まったく。」

先攻は…俺たち!

相手の投手の球は130q後半とそれなりに速い。

一球目は外角低目の直球

新条はこれを打ってショートライナー

見た感じバックを信頼して打ち取るタイプのようだ。

「神楽師、球を見ていけ。できるだけ球種をださせろ。」

大平先輩の指示が飛ぶ1球目は内角低目の直球

2球目は外角低目直球のボール球を振って、2ストライク

3球目はど真ん中から低目に決まる鋭いフォークで三振

「神岡、お前よりおちてないか?」

大平先輩がフォークをみていった。

「はい。多分20pは落ちてると思います。」

次は…俺か…

球はだいたい見えた。

あとは俺の長年の感だけが頼りかな?

1球目は…外角低めの直球でストライク

2球目は…ど真ん中のフォークでボール

3球目は…内角低めの直球でストライク

4球目は…ど真ん中の…直球!!

俺は思いっきりふった。

キィィン

いい音だ

これだから野球は辞められない。

センター前ヒット

ランナー…一塁

続きまして頼りになる4番バッター…中嶋!

大平先輩からヒットエンドランの指示がでる。

中嶋は初球の真ん中低目のストレートを振って一・二塁間をぬくヒット

俺は二塁を回って三塁へ

バシッ

しかし、三塁目前でライトから三塁への中継を挟んだ返球が帰ってきてタッチアウト

俺たちの攻撃は終わった。

レガースなどを付けて捕手にはいる。

「神藤!」

神岡からよばれる。

俺は急いでマウンドに行った。

「サインはどうするんだ?」

そういえば考えてなかった。

「そうだな…グーがストレート、一本がフォーク、二本がカーブ、三本がスライダーでコースは任せるよ。」

まずは投球練習をした。

ストレート、フォーク、カーブそしてスライダー…

さすがは神岡。球が速い。それによく曲がる。

バッターが入ってきた。

まずはストレートでストライク

順調、順調!続いてカーブで、ストライクをとった。

んじゃ調子に乗ってまたストレートで…

キィィン

この音は嫌だな。おまけにいいヒッ…

「なにクソ、ど根性だぁぁぁーーー!!!!!」

山崎があの球を捕った!ナイスファイトだ!山崎!

続きましてのバッターは…高柳…美里?

どっかで聞いたな…そうだ、千里がいってた娘だ。確かにかわいい。

バットを短く持っている。足で稼ぐタイプなんだろう。

だったら、全球ストレートだ。神岡がどこになげるかが問題だな。

1球目は外角真ん中のストライク

2球目は外角低目をファール

これで追い込んだ。3球目は内角高目を打たれてキャッチャーフライ。

次は…小田切双葉。

一葉さんの妹かな?背が高い。もしかしたら一発があるかも知れない。ここは慎重に攻めよう。

1球目は内角低目のフォーク

2球目は外角低目のスライダー

2球ともストライクにはいった。3球目は外角低目のストレート…

カキィーン

打球は…

ファーストゴロ

児玉っちがすかさずその球を捕って…アウト!

俺たちの攻撃の番

5番バッター神岡

「へへっ!松尾先輩にいい手土産をプレゼントするぜっ!」

バン!

バン!!

バン!!!!

三振におわった。

「児玉っちぃ!頑張れよっ!」

山崎と中嶋と俺は声を揃えて応援した。

「サンキュー!マイ フレンズ!」

児玉っちと入れ替わりに神岡が戻ってきた。

「あちゃ〜どうもピッチングの調子が良いときは打撃の調子がわるいな〜」

俺は大平先輩に今日の神岡の出来をきいてみる。

「ストレートは142qがMAXだな。カーブ、スライダー、フォークも三振が取れる球だ。今日は良い感じだな」

そんなに速かったのか…どおりで手が痺れるわけだ。

つうか、そんなにできるんだったら他の強豪校に行けばすぐ活躍できただろうに…

キンッ

児玉がヒットで一塁にでた。

次は駿足の橋本だ

大平先輩から2球目バントの指示がでる。

相手の1球目は内角低目に落ちるフォーク橋本は一応空振りする。

2球目は外角真ん中へのスライダー

橋本は上手く一塁方向に転がしてツーアウト二塁

次は薬都だ。

「神藤…おかしいとは思わないか?あのゴリラみたいな女のピッチャーとキャッチャー、あと双葉さんと美里ちゃんはいいとして、残りの五人はプレイスタイルがソフトなんだよ。」

山崎が俺に問いかけた。

「ソフトも野球も一緒だろ。」

「違うんだよ…微妙に…でも、俺から言わせてみれば、全く違う。」

山崎の野球を見る目は確なものだ。

それに加えて女が絡んでいる。

「キャプテンは俺たちになにか隠している。」

「でも、嘘ついてるようには見えなかったぞ。」

「だとしたらキャプテンが小田切さんから騙されてる。」

「あのキャプテンが騙されるなんて…あるわけないだろ。」

俺は溜め息をつき

「山崎…これは一つの推論だがこの学校にソフト部がないとしたらどうだろうか?そうすればソフトの娘が野球部にいるのが納得いくだろ?」

山崎は納得して

「不思議だよな〜女子高なのにソフトがないなんて。普通は女子の体育会系ってソフトおおいのにな。」

確かに不思議だ。

いくら似ているとはいえ違うスポーツ…どうやら何か裏にあるのは確かのようだ。

考えているうちに薬都がヒットを打って二・三塁とした。

次のバッター…

「って、俺じゃん!忘れてたぁ〜!」

山崎が焦って準備に取り掛かった。そして俺は小田切さんのいるほうを見た。

だがそこには小田切さんの姿はなかった…






「一葉ちゃん、これはどういうことなんだい?」

一人の男が言った。

「なんのことですの、総将さん?」

と、一葉と呼ばれた女性言った。

「お前なぁ、なに考えているんだ。あんな試合ふざけてるにもほどがあるってんだ。」

もう一人の男がいった。

「あの洋邦と何企んでいるかは知らないけど、君の嘘くらいで俺と竜一は騙されないよ。」

「あら、私は何も嘘は言ってませんわよ。彼女達は本当に野球部ですし、今年の予選は出場しますわ。」

小田切さんが微笑んで言った。

「確かに去年来た時はなかった。だが、ソフト部があったじゃないか!それがなくなりソフトにいた娘達が今試合している。これで気付かない方がおかしいさ!一体、何があったんだ?」

西田が小田切さんに問う。

彼女は微笑んで

「私の球…取れたら教えて差し上げますわ。彼から教えられたこのブレードを…」 西田と小田切の間が20m程離れる。

一呼吸おいて、小田切が球をなげる。

速い。しかし、西田の守備範囲だ。

ドゴォ

「私の勝ちですわ。」

「うぅ!や、やられたぁー!」

見事に竜一の腹に当たった。

「次は総将さんですわね。」

同じように距離をとる。そして、今度は少し低目に投げる。

ゴギン!!!

「……一葉ちゃん…………これはないでしょ…」

男の宝物ともいえるところに球が当たって総将はその場に苦しんだ。

「野球…舐めるなよ…あんたたちのようなソフト混じりの野球じゃあの1年には到底勝てはしない…一軍でもね。」

竜一は痛みをこらえながら言った。

「なにも知らないくせに、ふざけないでくださいません!いくらあなたたちが幼なじみでも許せませんわ!」 「なにも知らないのは一葉ちゃんのほうだよ…」

「何もしらない…確かにそうかもしれません。しかし、あなた方に何がわかるのです!女だというだけで様々なことを諦めなくてはならなかった私の…私達、女の何が!?…いえ、これ以上熱くなるのはよしましょう…最後に言わせて戴きますわ。二軍の試合勝つのは必ず私達ですわ。今うちのチームが3点を取ったようです。後、昼からは一軍同士の試合があります。こちらは私達が負けますわ。6ー0で。私はいつもの通り捕手です。…あら?終わったみたいですね。2ー3ですか。なかなかがんばったようですよ。」

球場の方をみて、小田切は微笑んだ。

「一葉ちゃんが野球が好きだってことは知っていたよ。1年の負けも事実だし、でも、もううちの1年に君達は勝てない一軍でもね…竜一が言ったようにね。」

総将は笑顔で言った。

(ふ…総将……セリフはカッコイイが…そのかっこはダサいぞ!)

股間をおさえてうずくまっている総将を見て、竜一は思った。

「一葉…もう一回勝負だ。今度は俺たちが勝つ!」

竜一が気合いのはいった声で言った。

さっきまでうずくまっていた総将が起き上がってこう言った。

「男子野球部の意地ってやつをみせてやるぜ!」

「いいですよ。見せれるなら、見せてください。男の意地というものを…」

小田切が微笑みながら言った。

「は〜い、ストップ。そんなに熱血すんなよ。」

いきなり洋邦が現れた。片手にはアイシングの道具を持っている。

「一葉…あれを投げたな?あの球が危険だとわかっていても使わなくてはいけなかったのか?」

一葉は顔を真っ赤にし

「すみませんわ洋邦さん。彼らに私達のことをわからせるにはどうしても必要だったんです。」

洋邦は顔を綻ばせて

「無事でよかったよ。一葉。さあ、左手を出してくれ一応アイシングをしておこう。腫れると困るからな。おい、竜一・総将てつだってくれや。」

「おい…ハゲ!どういうことか説明しろよ。」

洋邦の頭にかかとおとしを喰らわして総将は言った。






2―3俺たちは負けた…

みんなかなり泣いていた。俺もそのなかの一人。

そんななか千里は元気に俺たちを励ましていた…

あの時、山崎がヒットを打ち2点の先制点を手にした。

しかし、それから聖クラリス学園の二軍のみんなは、なにかのスイッチがはいったのごとく俺たちにヒットを打たせなかった。

そんな戸惑うなかでの八回裏、4番のホームランは絶望的だった。みんなは誰も誰のことも責めず

に自分の愚かさを純粋に悔しがった…。

「負けたか。だが、よくやったな。」

キャプテン達3年全てがいつの間にか帰ってきていた。

「今から我々3年と相手の一軍とで試合をする。
1左翼・入江
2遊撃・高橋
3投手・西田
4捕手・松尾
5一塁・根本
6三塁・大平
7中堅・本村
8右翼・狩野
9二塁・編田
だ。1年は何か得る事があるように努力せよ。」

キャプテンは声高らかにいった。

3年の試合を見るのは去年の甲子園の決勝以来だ。

そして、このチームの1年として見るのは初めてだ。

…あの時俺たちは山崎と二人で甲子園の決勝を見にいった。

高校生であそこまでレベルの高い試合に俺たち二人の興奮は何ヶ月も続いた。

試合が始まった。

先攻は聖クラリス学園だ。西田先輩の球は速かった。

「山崎…キャプテンはやっぱ凄いな。あの球を捕れるなんて…。」

「お前だったら170kmでも200kmでも捕れるさ。」

「いきなり、なに言ってんだよ?」

山崎の突然の言葉に驚いた。

「お前も俺もプロになる…俺が言うんだ、間違いない。」

山崎の顔はマジだ。

久しぶりに見たな…こんな山崎

「今、プロのことを話ても仕方がないさ。それより試合を見ようぜ。」

考えたくなかった…

自分がプロになるなんて

「…そうだな。すまんかった。」

すでに試合は六回まで進み0ー1でうちが勝っていた。

ニ死満塁でバッターはキャプテンだ。

2球見逃してツーストライク。3球目のストレートを振った。

ガキィィン

普通は打ち損ないの球だが伸びていきレフトスタンドに入った。

「なんてパワーだよ…あれだけ速くて重そうな球を…芯を外してホームランなんて…」

中嶋が呆然として言った。

3年生の先輩の試合は6ー0で先輩たちが勝った。

俺はバスのなかでいろんなことを考えた。

まるで相手にヒットを許さない先輩たちの完璧に近い守備…竜一先輩の球の速さそしてキャプテンのホームラン…

どれをとっても先輩たちには勝てなかった。







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