10、思伝



作・S





「甲子園大会決勝です!王者・SA学園対、ミラクル・島長高校です。まもなく、試合が始まります!」

「とうとう…か。」

俺は呟いた。

「なんとか試合に出たいな。」

「先輩が怪我でもしない限り無理だろ。」

山崎が冷静に答える。

「だなあ〜」



「プレイボール!!」

ふん、久しぶりだな。

島長高校と会うのは。

俺の母校になるわけか…嫌だな…

俺は竜一にストレートを投げさせる。

たまに変化球。

相手はまったく打てない。

理論に基づいたリードもいいが、その投手の持ち味を殺さないのもまた、良いリードだ。

簡単に二人を三振に仕留める。

「久しぶりだな新宮時?」

「こっちには、戻ってこないのか?あの事件なら気にすることはないぞ?」

「無理だよ…戻らない…俺は犯人を捕まえないといけないんだ。」

「……」

簡単に三振に仕留める。

今日は打線も好調だ。

徐々に得点を重ねてゆく。

九回表

7対0

ほとんど勝利は見えた。

竜一のストレート

チッ!

ふらふらとファールフライがあがる。

捕れる…

俺はすばやく移動した。

相手のベンチの前。

俺はボールの行方だけを見ていた。

グリッ

「なっ…」

バッターが投げたバットを踏んでしまった。

捕れない…

俺は咄嗟にミットを右に出していた。

ポスッ…ガンッ!!



「キャプテン!!」

俺は一目散にキャプテンのもとへと走っていった。

ミットにはボールがおさまっているが、先輩は動かない。

監督が駆けつけてきた。

「脳震盪だな…救護室へ連れて行こう。」

キャプテンは担架に乗せられていってしまった。

「交代、捕手・神藤」

根本先輩がそう言った。

俺は状況がいまだにわからない。

気づいたら、捕手の位置にいた。

何はともあれ…あと二人抑えれば良い。

俺は竜一先輩にまかせた。

俺は壁になればいいんだ…

ズバンッ!!

九球目のストレートがミットにおさまる。

「ゲームセット!!」

「ぃいやった〜!!」

俺は大声を上げて喜んだ。

みんながマウンドへと集まっていく。



「終わったか…」

俺は最後のバッターが三振したのをみた。

ここは救護室で、俺はテレビでその光景をみていることしかできなかった。

「はい。大丈夫ですか?」

千里が俺が気づいたことに気づいて寄ってきた。

「大丈夫だ。早く神藤の所へいってやれ。じゃないと、俺が脳震盪起こした意味がない。」

「…わかりました。…先輩」

千里が、何か言いたげに俺を見る。

「なんだ?」

「あの日…私を助けてくれてありがとうございました。あの時から…先輩に恋していましたよ。」

「何を馬鹿なことを言っている…早くいってやりな。お前のパートナーは俺じゃないんだ。あいつなんだからよ…」

「わかってます。じゃあ…本当にありがとうございました。」

七瀬はそういって走っていった。

「パートナー…か。」

俺は涙を流していた。

優勝した嬉しさの涙ではない…七瀬の言葉に涙したわけでもない…パートナーを失ったから流れる涙だ…

なぜ、俺はあの時あいつを救ってやれなかったんだろう?

その思いが二年経った今も思い起こされていた。



祝勝会を途中で抜けて、俺と千里は海岸に来ていた。

「風が気持ちいいね。」

千里の笑顔が俺の方へと向けられる。

「ああ…本当にな…」

お互いに分かり合っているもの。

それをいまから共有する。

そう考えると、不思議と恥ずかしさと勇気が込み上げてきた。

「千里…」

「ん…」

「月並みな言葉でしかいえないけど…」

俺は拳を握り締めた。

ありったけの気持ちを込める。

「俺は先輩たちみたいにすごい男じゃないけど…カッコイイ男になんかなれないかもしれないけど…でも、千里の事が…お前の事が好きなんだ!!お前の一番にはなれないかも知れないけど、お前が困ってるときは、カッコ悪くても絶対に助けるから…」

言葉が途切れる。

馬鹿野郎!!!!ここからが一番大切なんだろうが!!

言うんだよ!!最後の一言を!!

「俺と…付き合ってくれ!!」

俺の声が闇に霧散する。

多分、今の俺の顔は一番情けないだろうな。

そんな気がする。

「うん…私の彼氏、これからお願いね…悟…」

千里とゆっくりと抱き合う。

ふと、空を見上げた。

ああ…そうか…

今日は満月だったんだな…



掲載 第一話:2004/12/06     最終話:2005/12/18







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